道具と制作の進め方

まず楽しむ。そして余計な手間とお金を掛けずに自慢できる作品作りを目指す。
これが「街を描いて街を知る」のモットーです。

●スケッチの修行より先に透明水彩の美しさや塗りの楽しさを味わおう。
絵を描くためには、街の風景をまずはスケッチできるようになり、そのあとでやっと色塗りを楽しめるようになります。しかし、スケッチが上手くなるのは難しいし、描けるとしても時間が掛かります。そこで、「街を描いて街を知る」では後でスケッチが上手くなればよいと考え、まずは塗りの楽しさつまり絵を描く楽しさを味わってしまおうと考えました。

それを実現したのがハイブリッド水彩システムです。トップページの図解でご紹介したように、皆さんが写した街の写真をコンピューターとタブレットペンで線画にして提供しています。この線画があれば、誰でもまず色塗りから楽しむコトができます。熟練を要する手作業の部分も多いのですが、コンピュータで線画を作り出す部分にもハイブリッド水彩線画システムという特許技術が使われており、そのため自然で且つ色の付いた線画を提供できるようになりました。

街を描いて街を知るというこの活動では、絵が上手くなり最終的には線画システムを用いないで描けるようになることも狙いの一つなので、線画システムを用いないで描いても良いのですが、作品品質を確保するために、線画システムを使う場合は必ずこのハイブリッド水彩線画システムを使って頂いています。つまり、ご自身でフォトショップなどで加工されることは禁止させて頂いております。その代わりと言ってはなんですが、個人利用を前提にデータの状態での下絵のご提供もしております。

また、この線画は、皆さんの上達に合わせて、線を少なく且つ薄くしていきます。ただ、線画は都会の雑踏を描くなどには適しているため、わざと強く残して味を出すことも良い選択肢の一つになります。つまり、上達や状況に合わせて線画を変えてご提供することができると言うことなのです。

●道具も絵の品質を上げるのに一番効果のある最高級の透明水彩絵の具を使う。
透明水彩では、とにかく良い絵の具を使う事が鍵になります。同じ透明水彩でも入門用は安いですが、やはり透明感や深みが十分ではなく、紫外線に対する色の持ちも違います。

高級な絵の具は倍以上の値段なのですが、実は、透明水彩絵の具は使ってもあまり減りません。ですので、「街を描いて街を知る」の活動に適した色を集めてセットにし、それをNPOでまとめて購入しプラスチックのパレットに数人分に小分けして頒布することにしました。これで十分1年は描けると思いますし、水筆1本を付けて値段は安い絵の具1セットを購入するよりもお安くなります。

しかも、よく使う色だけがセットになっているのでお得です。一般のセットでは、「あー、あの肌色に近い色が欲しい」等と言うことがおこり、どんどん買い足すと、結局高い買い物になってしまうからです。このパレットセットに水筆の中1本をセットにして実費でお分けしています。
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●筆は水筆
もちろん、筆も良いモノの方が良いのですが、絵の具ほど絵に大きな影響がありません。それは、描くサイズがA5サイズと割と小さいので、水持ちのとても良い高級な筆を使う必要がないからなのです。

それに、ハイブリッド水彩の場合、とにかく手軽に楽しむことを考えていますので、紙を水張りしてびしょびしょにしながら描くことはあまりやりません。なので、水筆でも十分描けます。描く紙のサイズも手軽さを考えてB5ですから大量に水を必要とすることはありません。便利さと手軽さを考えると水筆はすばらしい発明品だと思います。

しかし、ウェットオンウェットやスプラッタリングを否定するわけではありません。その時は普通の筆をお貸しすることもできますので、普通の筆を使って思う存分周りを汚しながら楽しみましょう。

最後に簡単に水筆の使い方をご紹介しておきます。水筆は各文具メーカーからいろいろな種類が出ておりますが、使い方はほぼ同じです。水入れや筆洗が必要ないので、手軽に水彩画が楽しめます。使い方は、握る部分に水を入れるだけ。そこを少し押すと、毛先へ水が送られます。この水で絵の具も溶けるし、ティッシュと合わせて使うと筆をきれいにすることもできます。持ち運びにも便利ですし、描いている時にこんな邪魔な猫が入って来ても筆洗をひっくり返したりという心配が無いので安心です。
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この写真に写っている絵の具は、固形タイプの透明水彩絵の具セットです。長くハイブリッド水彩システムで描かれている人の中には、固形絵の具セットに自分で好みの色を加えて使われている方も多くいらっしゃいます。

制作の進め方

1.ご自身で描いてみたい場所や思い出の場所の写真をまずは携帯やデジタルカメラで撮りましょう。写真の画素数は1000pix以上 × 800 pix以上のデータをご用意ください。縦横はどちらでもかまいません。画素数が高すぎるとメールで送れない場合もありますので、その場合はある程度小さくしてください。写真は明るく色がとんでしまったものは救いようがないのですが、逆に暗くつぶれているものは実際には情報が載っていることがあるので、明るすぎるよりは暗めの方が下絵処理には適しています。下の写真をご覧下さい。この写真に写っている建物は、今は再開発で取り壊されてしまっています。昨日までの当たり前の風景がいつ無くなるとも限りません。思い出のためにもとにかく写しておきましょう。
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2.先の写真を絵にしたいと思います。では、話しを進めましょう。写した写真をメールでお送り頂きますと、次図の様なA5サイズの水彩画紙に顔料インクで印刷された下絵一枚と彩色時の見本と拡大した写真をA4用紙に印刷してをお届けします。見本はあくまでも初心者の方が水彩にするとこのぐらいの色合いになると言うことを知ってもらうためのモノでして、この通りに塗りましょうという見本ではありません。見本は写真では一色に見える部分も多数の色味で描いています。これも、水彩は心の目で色を見て塗って良いのだと言うことを知ってもらうためですから、この通りにまねる必要はありません。あくまでも、あなたの心の目で色を見つけ出して下さい。
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水彩画紙に印刷された下絵は描かれる方の習熟度に合わせて線数や色の濃さ変えて制作しています。
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この下絵は描きやすいように線を多めに且つ線の濃度も高くしてある例です。ただし、建物などの風景は、このぐらいの線が残っている方が面白い絵にもなりますので、下絵にどの程度線を残すかは職人的な経験と勘が必要になる作業です。
また、場合によっては、人間の顔をペンタブレットで描き込んだりもする手間の掛かる作業もNPOでは実は行っています。
さらに、単純に写真をそのまま線画にしているわけではなく、対象をトリミングしたり、不必要な人間を取り除いたり、なにより、カメラによるレンズのゆがみを除いて垂直と水平を合わせるなどの作業を行い、絵になるように画面を作り上げています。

これも場合によっては、ゆがみや水平の崩れが逆に面白いと思われる場合はそれを生かして下絵制作を行う場合もあります。多くの場合は任せてもらっていますが、どのような処理にするかを教室で相談しながら決めることもできます。いずれにしても線そのものに色が付いているため、描きやすいですし、絵の具を塗った後に線の不自然さが残りにくいのがこのハイブリッド水彩システムの線画の特徴です。色が付いている線画は私が知る限り他では提供されてないと思います。

実はこの線画処理は特許技術でもあるSICを利用して作り出されています。SICで作り出した作品は過去に様々な賞を受賞した作品を生み出してきました。処理の流れなど詳しくはこちらのサイトで説明されています(英文ですhttp://synergisticart.com/)このSICを透明水彩の線画作りに特化して制作してもらったものがハイブリッド水彩システムなのです。実は色の見本もSICで制作しています。SICは一つのソフトで非常に多様な種類の絵を作り出す能力も持っているのです。

3.色々な行程を踏んで作られた線画ですが、人間らしい下絵を出すためもあり、線は途切れ途切れになっております。SICが生み出す線はいわゆる輪郭線では決してないのです。ですので、あなた自身である程度線を補足する必要があります。この過程が、物を良く見て描くことにもつながり、少しずつ下絵を描く練習にも実はなっているのです。線を描くには、0.5mm,2Bの芯を入れた製図用のシャープペンシルを使います。製図用のシャープペンシルには長い実用的なケシゴムが付いていますので、これ一本で事が足ります。ここでも、いかに手軽に絵を描くかにこだわった道具の選択がなされています。もちろんエンピツとプラスチックケシゴムを使っても良いですが、A5サイズの紙に、すぐに芯が太くなるエンピツを使うのは実用的ではありません。また製図用のシャープペンシルにはお手軽な価格の物もたくさんあります。選ぶ際には替えのケシゴムがすぐに手に入るものを選ぶと良いと思います。

では、シャープペンシルで線をたしてみましょう。やっていくと詳細にエンピツを入れすぎてしまうことがあります。そうするとこのようになります。
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まあ、このように詳細に描いても良いですが、大切なのはこの後の色塗りで、分らない部分を分らないままに描かないようにするために線を入れると言うことです。

今描いているものは何なのかをしっかりと意識を持って描くことが大切なので、描いている部分が何かが分るように足りない線をエンピツで入れます。ですのであまり多く入れる必要はありません。ただし、「街を描いて街を知る」の場合、看板などの文字は、できれば読めた方が記録のためにも良いので、できるだけ描くようにしましょう。こんな感じです。
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4.さて、次は楽しい色塗りです。その前に色を塗りやすくする準備をしましょう。まず、パレットを見て下さい。透明水彩は固まっているためパレットを見ただけではどんな色なのかりません。ですので、水筆で少し絵の具を溶いて水彩画紙に描き色の見本を作りましょう。一色一色塗る毎に、筆はティッシュで拭き取りきれいにして下さい。混色すると色の見本が混色して意味のない物になってしまいます。

パレットと同じ順番に色を塗って下さい。この時、濃い色から薄い色までグラデーションができるように描いておくと、後々便利です。出来上がったら、出来上がった色見本とパレットを並べてみましょう。
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右上はランプブラック
下の段は左から、オペラローズ、ウィンザーレッドディープ、パーマネントモーブ、フレンチウルトラマリン、セルリアンブルー、ヴィリジアン、パーマネントサップグリーン、ローアンバー、イエローオーカー、ナポリエローウィンザーレモン、ウィンザーイエロー です。(空いているところがまだあるので、自分で好きな色をたすと良いと思います。)また、この色のセットは既に手に入いらなくなっている色もあるので今後変える予定です。
さて、いかがでしょうか、紙に塗った色とパレットの色はずいぶん違いますよね。ですので、塗る時はこの紙を用意しておき、これを見ながら色を探して塗る様にして下さい。

5.絵の具を塗ってみましょう。
まずは、道具をここで、おさらいしておきましょう。既に必要な物はご紹介してありますが、これらを並べてみました。いかに手軽にしかも本格的に描くかを考えて揃えた道具なので、大げさなものでは無いことが分ります。
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この他に、マスキングラバーや顔料ペンなどあると便利な物は色々とあるのですが、最初はこれで十分でしょう。
では描き始めましょう、まず、何が絵の中心なのかを考えます。その部分を詳細に描き、そこから離れた部分は荒く描くことにします。この絵の場合、金物屋さんの店の中のごちゃごちゃ感と店の前にいる掃除をしている女性です。そこを中心に左の煉瓦のビルのファッサードと右のビルの大きな看板の文字、これらがポイントです。

塗りの順番としては、鮮やかな部分か明るい部分からこれが透明水彩の定石です。透明水彩は色を重ねることで色に厚みをまして濃くしていくことができますが、逆に鮮やかさや明るさは減っていきますので、鮮やかな部分明るい部分はできるだけ早い段階で描いてしまい汚さないようにします。

全ての美術作品は、統一感と対比でできています。絵画の分析で私は博士号を取得しており、この分野は私の専門です。なんと言っても対比の王道は明暗の対比です。色の対比ではありません。そして透明水彩では明暗の対比で暗い部分つまり影の部分を何色で塗るかは重要です。

私が作った絵の具のセットにはランプブラックを入れましたが、この黒は本当に黒なので、ニュアンスがありません。そこで、ニュアンスのある黒をどのように作るかが焦点になります。基本は、補色の混色です。今回この絵の制作においては、ヴィリジアンとウィンザーレッドディープを混ぜて黒にしました。紫っぽい色になりますが、単純な黒よりも何かを感じられるのではないでしょうか。私としては長い年月が積み重なって生まれた色、そんな色を表現したつもりです。
十二社通り旧冨士屋金物店v1
先ほども少し触れましたが、今回描いた場所は、東京都新宿区西新宿五丁目の再開発地域です。現在この場所は更地になっています。
Fig11v1.
右端のビルももう使われていませんし、お店の看板も外されていますので、じきになくなってしまうものと思います。街も生きていますから、どんどん変わって行きます。建物など風景がなくなると、そこの思い出も忘れられがちになります。なので、建物を描いておくことは思い出のよすがを残すことにもなります。そこで出会った人々との交流も思い出します。私の場合は、この近くに転居してきた時に初めてお話したのがこの金物店のお店の前でお掃除している女性でした。

と言うこともあり、この女性は点景ですがしっかり描きたかったので、女性の周りを暗くしています。このように地の部分を塗り込んで対象を浮き立たせるやり方をネガティブペインティングといい、透明水彩では重要な塗り方の一つになっています。透明水彩では、白は紙色を残すしかありませんので、白いものの形を描くには周りを塗り込んでいくことになるからです。従って、透明水彩は最終的な出来上りを想像しながら計画的に描くことが大切になります。紙色はできるだけ大切に残しましょう。基本的に下塗りと言って全体を塗るなどしてはいけません。

※透明水彩絵の具を使った描き方のコツ等詳しくは、ハイブリッド水彩講座で今後お伝えしていくつもりです。こちらもご覧になって参考になさってください。

※下絵は、その方のお好みや上達状況に合わせてご相談しながら作成しております。また、「古い思い出の地域の写真から描いてみたいわ」とおっしゃる方もご相談ください。次のように、多少写真がセピア色に変ってしまっているお写真から下絵を制作することもできます。(但し、お写真の状態によってはお受けできない場合もございます)
Fig12_scatarinaap-mod3Fig13_scatarinaap-mod3-modFig14_pluspencilmod2Fig15_apt2

下絵のお申し込みについて

値段については「下絵の制作」をご覧下さい。この活動はNPO法人クリエイティブスマイルが運営しておりますので、年会費5000円(入会金無し)をお支払い頂き会員になって頂きますと、会員特典として「街を描いて街を知る」の場合は無料で3枚の下絵を制作いたしております。

また、本活動とは異なりますが、個人的な絵を描きたい場合は下絵の制作提供しております。また下絵データでのご提供も会員の方に限らせて頂いております。もちろん、このような活動を行っているクリエイティブスマイルを金銭的にもしくはボランティアとして、支援して頂ける方も是非、会員になって頂けますようお願い申し上げます。

下絵制作については、下絵の制作ページの「下絵制作依頼フォーム」よりご依頼ください。折り返し、画像の送信先と画像確認後にお振り込み頂く金額をお知らせいたします。振り込み料金はお客様負担となっておりますので、宜しくお願いいたします。

そして、描き終わりましたら、描き上がった絵をスキャナーなどでデータにして、思い出などのコメントと一緒にpicasa上にアップして作品と描いた場所が地図で確認できるようにします。既に沢山の作品が地図上にアップされていますので、是非ご覧下さい。
→全作品を位置情報付きで見られます

さらに、描いた絵をマグカップやカレンダーにして楽しむコトもできます。シンプルに画像を貼り付けるだけではなく、必要があればデザインもNPOにてデザイナーが施事も可能ですので素敵な思い出を日常的にお使い頂けることになります。このように、自分で描いてそれを使って日常を豊かにすることもこの活動の目的の一つです。
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さらに、地域紹介のコーナーとして観光協会のサイトなどで使って頂けるようなコンテンツにまとめることも行って行く予定です。楽しみながら社会貢献をしていきましょう。是非NPOへの入会もご検討下さい。

先に少し述べましたが、「街を描いて街を知る」の趣旨とは異なる個人的な写真から絵を描きたい等のご要望に関しては、関連会社にて承りますが、お申し込みはこちらで結構です。金額に関しては、これも「下絵の制作」をご覧下さい。

尚、下絵データの提供はNPO会員のみにかつ個人での利用を前提として、紙での下絵頒布価格と同額で行っております。紙の下絵にデータも付けた場合はそれぞれの頒布価格をご請求させて頂きます。データは、顔料系インクのプリンターをお持ちの方は、そのまま水彩画紙に印刷することで下絵を制作することができます。染料系インクやレーザープリンターはお使いにならない様お願い申し上げます。